新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まって以来世界中の政府や研究施設、医薬品メーカーが取り組んできたワクチン開発。ファイザー/ビオンテックやモデルナが先行し、また英国では政府の助成を受けたオックスフォードの研究チームがアストラゼネカ社と組んで開発してきたワクチン候補のフェーズ3治験データが発表されていますが、他にもたくさんのワクチン候補が開発中で、世界各地で大規模な治験が行われています。そのうちのひとつ、ヤンセンファーマ社のワクチンは、英国を含む世界各国で3万人を対象とするフェーズ3治験を開始しました。ダンディー大学もその拠点のひとつだということで、私も治験に参加することにしました。
ヤンセンファーマ(Janssen Pharmaceutica)はJohnson & Johnsonの子会社。ワクチン開発のアプローチはいろいろありますが(詳しくは下のリンクを参照してください)、ヤンセンはアデノウイルスベクターという手段を使ってコロナワクチンの開発を進めています。過去にはこの手段を使ってエボラウイルスワクチンを開発した実績があるそう。
DNA・mRNA・ベクター… 多様なワクチンの違いは?
日経バイオテク 2020年7月27日
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61944150X20C20A7000000
治験参加志望者を募っているのをどこかで見て登録したまま忘れていたのですが、11月20日に招待が来たのであらためて参加希望の意思を連絡し、26日の朝にリサーチセンターに出頭することになりました。
リサーチセンターに入ると、中は吹き抜けの広いホールになっています。受付に行くと、タブレットを渡されました。まず治験の目的や概要を簡単に説明する動画を見てから詳細説明を読むように、とのこと。ページごとに理解・了解したというボタンを押して次に進みます。疑問や不安点がある場合は質問したいというボタンを押し、説明のどの箇所についての質問なのかを指定できます。全体ではかなりの長さがあり、見落としがないよう注意深く読むとこれだけでずいぶん時間がかかります。最後に同意ページに到達したら、同意はせずに受付の人に戻せとの指示だったので、それに従いました。
次に、担当看護師が来て、個室に案内されました。ここでは説明を全部読んだことを改めて確認し、質問箇所をチェックします。私は1箇所に質問のフラグを立てていたので、これに答えるために医師が呼ばれました。
質問したかったのは、「治験の期間は全体で2年ほどとあるが、他社のワクチンが年内には承認されそうという状況なので、もし他のワクチンを接種できることになっても受けられないのか?」という点。英国では医療が国営なので、ワクチンが承認されたら全国民が無料で接種を受けることができます。年齢によって優先順が決まっているのですが、私の年代は早ければ春が終わる前に順番が来る可能性があります。旅行などにワクチンパスポート制度が導入すべきといった声も出ているので、治験に協力したために今の不自由を続けなければいけないのだとしたら、参加にためらってしまいます。
しかし医師の説明によると、この治験は二重盲検ランダム化されているが、もしワクチン接種の招待が来た場合はリサーチセンターに連絡すると盲検解除してくれるので、自分が接種を受けたのがワクチン候補なのか生理食塩水なのか確認できるそう。その時点で医師と相談し、希望するなら治験から外れて承認済みワクチンの接種を受けることができるとのことでした。それなら安心ということで、参加に同意することにしました。同意書へのサインもさきほどのタブレットを使い、法的効力を持たせるために看護師が証人となって、私と医師が同意書にサインしました。
次に身長・体重・血圧のチェックと健康状態や生理、服用薬などについての問診があり、採血管3本分の血液と鼻咽頭スワブが採取されます。治験の経過観察に必要となるキットを一式渡され、記録用のアプリをダウンロードするよう指示されます。アプリでアカウントを作ると、まずは練習用の画面が表示されます。キットの使い方の説明を受けて、実際に記録を入力する練習をし、理解度チェックのクイズに回答します。
以上でスクリーニングが完了。事前に読んだ情報では、スクリーニング後に別途予約を入れて接種を行う場合もあるようですが、ここではこの後すぐに別室に移動し、接種を受けました。前述の通り二重盲検ランダム化プラセボ比較試験なので、治験参加者の半数はワクチン候補、半数は生理食塩水を筋肉注射されるのですが、どちらに入っているのかは本人だけでなく医師や看護師にもわかりません。プログラムが生成した番号だけが記録され、その番号に対応する薬瓶の液体が注射されます。
注射後はアレルギー反応などが出ないか観察する必要があるので、ナースステーションの前で座って待つように指示されます。ここまでで2時間半が経過していてもうお昼の時間。お腹がすいてきたなあと思いながらスマホでキンドル本を読んでいたら、看護師がタイミングよくお茶とおやつを持ってきてくれました。解放された頃には3時間近くリサーチセンターで過ごしていました。