スコットランド政府は、新築建築についてパッシブハウス基準に相当する建築基準の適用を義務付ける法律を制定する方針を発表しました。今後2年以内の成立を目指す計画とのことです。
パッシブハウス(Passivhaus / passive house)とはドイツ生まれの省エネ建築。「年間の暖房需要を床面積1平方メートル当たり15kWh以下に抑える」という非常に厳しい性能基準に基づいて建てられます。
英国北部に位置するスコットランドでは、住居を快適な温度に暖めるために必要な暖房費が所得の1割以上に達してしまうfuel poverty(燃料貧困)が、長年の社会問題になっています。統計によれば、スコットランドの世帯のうち約1/4が現在fuel poverty状態にあるといいますが、その大きな要因となっているのが住宅の断熱性能の低さ。英国の住宅は欧州でも断熱性能が特に低いと言われています。また、ほとんどの住宅では暖房にガスボイラーを使っているので、暖房費がかさめばそれだけCO2の排出量も増えます。
パッシブハウスは、建築費用こそ一般の住宅よりやや高いものの、暖房の使用を大幅に減らすことができるので、fuel poverty対策の大きな武器になります。そのためスコットランド議会では、野党労働党のアレックス・ラウリー議員が、新築住宅にパッシブハウス基準の適用を義務づける法案を提案していました。しかし、厳しいパッシブハウス基準を満たすためには、保守的な建設業界、建築資材業界の慣行を大きく変える必要があります。そこまでしなくしてもと渋る業界の声に、政府も法案の採択に消極的なようでした。
なので、議会がクリスマスで閉会する直前の週に、政府がパッシブハウス基準法案を支持する姿勢を表明したことに、法案採択を求める人々に喜びをもって迎えられました。
.@scotgov have stated they will legislate to give effect to @alexrowleyfife's Members Bill proposal for minimum environmental design standards for new-build housing. They will do so within two years.
Learn more about the proposal: https://t.co/m74sdRrq0B pic.twitter.com/XJmhxQnCeQ
— Scottish Parliament (@ScotParl) December 16, 2022
The proposal from @AlexRowleyFife aligns well with existing commitments which @scottishgreens secured in the Bute House Agreement.
So I'm pleased to confirm that @scotgov will bring in new design standards for a Scottish equivalent to the Passivhaus standard. https://t.co/4rc0QpJbFy
— Patrick Harvie 🇪🇺🌈 (@patrickharvie) December 16, 2022
実は政府発表の1週間ほど前に、英国気候変動委員会がスコットランド政府のネットゼロ目標進捗状況について評価レポートを発表しており、2030年までにCO2排出量を75%削減するという野心的な中間目標の達成に向けた取り組みが遅れていること、特に建築物の排出量対策が進んでいないことを指摘していました。それがきっかけになって今回の発表に至ったのかもしれません。
また、昨年のスコットランド議会選挙後、スコットランドでは最大政党のスコットランド国民党がスコットランド緑の党と協力関係を結んでおり、緑の党の共同党首2人がそれぞれ脱炭素建築担当とグリーンスキル担当の大臣に任命されています。パッシブハウス基準法案が緑の党の政策とも親和性が高いことも役立ったかもしれません。
理由が何であれ、パッシブハウス基準が標準化されれば排出量削減に大きな貢献となることは疑いなく、またfuel poverty撲滅に向けた大きな一歩になります。標準化がコスト減につながることも期待でき、長期的には既存の住宅の断熱性改善にも貢献するかもしれません。一刻も早い実施を願っています。